研究内容
これまでの研究テーマの例を以下に紹介します。
マイクロピラーアレイを用いたゲル粒子作製技術 NEW
本研究では,微小な柱構造(マイクロピラー)を規則的に配置したマイクロ流体デバイスを用いて,ゲル粒子を連続的かつ高精度に作製する新しい手法を開発しました.このデバイスでは,液滴の生成からゲル化,不要な微小液滴の除去,さらに油中で作製した粒子を水中へ移す工程までを,一つのチップ上で自動的に行うことができます.本手法により,大きさのそろったアルギン酸ハイドロゲル粒子を安定して作製できるだけでなく,細胞をゲルの中に包み込み,作製後に粒子を回収することにも成功しました.この技術は,将来的に組織工学や再生医療,細胞評価技術など,バイオ・医療分野への応用が期待されます.
関連論文等
- N. Tottori, Y. Tang et al., Soft Matter 22, 1483–1493 (2026)
3Dプリンタ製液滴作製・分離デバイス NEW
本研究では,低コストな卓上SLA方式3Dプリンタを用いて,液滴生成流路とDLDマイクロピラーアレイを一体化したマイクロ流体デバイスを開発しました.本デバイスは,従来のフォトリソグラフィでは困難であった200–400 µmの深い流路構造を実現し,200 µmを超える大型液滴の生成と,主液滴とサテライト液滴の連続的かつ高精度な分離を可能にします.補助的な共流導入により分離のロバスト性も向上し,材料合成や細胞関連研究など,大型液滴・粒子プロセスのスケーラブルな応用に道を拓く技術基盤を示しました.
関連論文等
- Tang et al., Ind. Eng. Chem. Res. 65, 873–881 (2026)
バイオセンサによる核酸医薬検出 NEW
本研究では,アンチセンス核酸(ASO)医薬ビルトラルセンを標的例として,中性電荷ASOの電気化学検出法を提案しました.ヘアピン型DNA(またはRNA)プローブをナノ構造化金電極上に固定し,ビルトラルセンとのハイブリダイゼーションを電気化学的に検出した結果,負電荷DNAを標的にした場合に比べて信号変化が小さいものの,応答が速く安定な二本鎖を形成しました.この挙動が中性電荷ASO特有で,一本鎖間および二本鎖間静電反発の抑制に起因することを明らかにし,ASOを標的としたバイオセンサ設計指針を示しました.
関連論文等
- Kanno et al., ACS Electrochem. , 2026, DOI:10.1021/acselectrochem.5c00384
温度で制御できる細胞分離チップ NEW
本研究では,温度制御によって細胞の大きさに応じた分離を可能にするマイクロ流体デバイスを開発しました.温度応答性ハイドロゲルを用いてマイクロピラーアレイを作製することで,温度制御を介して分離サイズの閾値(臨界径)を柔軟に変更でき,がん細胞など特定細胞の高純度分離を実現しました.今後,診断や細胞治療への応用を目指してさらに研究を進めていきます.
関連論文等
- 東京科学大学プレスリリース:「温度で細胞を自在に分ける細胞選別チップ」,2025年12月3日公開Link
- Jiang et al., Lab Chip 25, 6454–6464(2025).
- Tottori et al., Sci. Rep. 13, 4994(2023).
液滴のオンチップレーザー回折計測
本研究では,マイクロ流路内で生成される微小液滴の高精度なその場計測を目的として,市販の倒立顕微鏡ベースのオンチップ型レーザー回折計測装置を開発しました.PDMS製十字流路で生成された直径20–50μmのO/WおよびW/O液滴にレーザーを照射し,取得されたレーザー回折・散乱パターンの解析を行うことで液滴径と液滴材料の屈折率を同時に測定しました.その結果,検出可能な屈折率差0.004以上,液滴直径の推定誤差は5%未満,屈折率の推定誤差は0.5%未満という高精度な液滴計測を実現しました.
関連論文
- Masui et al., ACS Meas. Sci. Au 5, 647–655(2025).
三相液滴からの双子両凸レンズ粒子生成
本研究では,界面活性剤を含む三相液滴を生成するマイクロ流体技術を開発し,1つの液滴から2つの両凸ポリマー粒子を同時に作製することに成功しました.2つの光硬化性モノマー流とシリコーンオイル流を用いてナノリットルサイズの三相液滴を形成し,チップ外で光重合しました.この方法はヤヌス液滴と比べて生産収率を2倍に高め,流量比を調整することで粒子の大きさと形状を精密に制御できます.特殊なマイクロ光学素子や機能性材料の開発に有用な汎用性と効率を備えた手法です.
関連論文
- Xu et al., Sci. Rep. 15, 22936(2025).
PDMSチップによる単分散O/W滴のステップ乳化
本研究では,PDMS製のステップ乳化装置を用いて,直径20 µm未満の単分散O/W液滴およびポリマー微粒子の生成を実現しました.高さ4 µm,最小幅10 µm,開口幅38 µmの三角型ノズルを264本備えた装置を作製し,酸素プラズマ処理によって親水化して用いたところ,平均径20 µm未満,変動係数4%以下の液滴を安定して生成し,最大スループットは0.5 mL/hに達しました。さらに,液滴をオフチップで光重合することで平均径20 µm未満の単分散アクリル微粒子を得ました.
関連論文
- Tottori et al., Micromachines 16, 132(2025).
ステップ乳化法とDLD分離技術
ステップ乳化法は,界面張力勾配を駆動力として用い,流量変動に強く,スケールアップに適した単分散液滴生成法として知られていますが,主滴の生成時にサテライト滴という副産物が生成されることが一般的です.本研究では,ステップ乳化ノズルアレイの下流部にDLDマイクロピラーアレイを配置し,主滴とサテライト滴を分離する装置を開発しました.最大で1000個のノズルをDLD流路と組み合わせた装置を用い,100%サテライトフリーの単分散液滴が得られることを確認しました.
関連論文
- Ji et al., Micromachines 15, 908(2024).
- Ji et al., Micromachines 14, 622(2023).
スリット流路を用いたステップ乳化装置
スリット流路と垂直に交差する並列チャネルを備えた新しいステップ乳化装置を開発しました.この装置では,スリット流路に沿って並列配置されたノズル近傍から装置出口に至るまで,生成滴を連続相の流れにより効果的に誘導することで,ノズル近傍への液滴の滞留や液滴同士の合一を防ぐことができます.結果として,単分散の油中水型(W/O)あるいは水中油型(O/W)液滴を迅速に装置外で回収することが可能です.
関連論文
- Zheng et al., Ind. Eng. Chem. Res. 64, 13720–13729(2025).
- Zheng et al., Ind. Eng. Chem. Res. 63, 10226–10233(2024).
磁場応答液滴を用いたデジタルPCR
液滴デジタルPCRは多量の微小液滴内でPCR反応を誘起して,反応した液滴数をカウントすることでDNAを高感度検出できる技術です。本研究グループでは,液滴デジタルPCRで求められる均一かつ熱安定性の高い液滴を作るための,マイクロ流体デバイスや液相組成の研究を行っています。また,磁場応答性粒子を含ませた液滴を作り,個々の液滴を磁気的に操作,分取できる技術の開発を進めています。
*この研究は,競輪の補助を受けて実施しました。
微細なポストによる液滴分裂メカニズムの解明
水と油などの混ざり合わない二種類の液体を微細なポストが整列した流路に流すことで、比較的均一な(準単分散)液滴を生成できることが知られています。本研究グループでは、その液滴が生成される過程で二つの液滴分裂モードが存在することを明らかにしました。また、分裂した液滴の直径を表すべき乗方程式を明らかにするなど、液滴分裂に関する理解を深めることで、新たな液滴生成デバイスの開発に向けた研究を進めています。
関連論文
- Masui et al., Lab Chip 23, 4959–4966(2023).
微粒子分離マイクロ流路デバイス
微粒子分離は医療・生化学分野,生産技術など多岐にわたる領域にて必要とされています。本研究グループでは,規則的に配列されたマイクロピラー構造を有するデバイスを作製し,そこに微粒子懸濁液を導入するという簡単な操作で,特定の微粒子を高効率に分離可能な技術を開発しています。これまでに,ポリマー粒子,液滴,細胞などの分離を実施しており,より高い分離性能を有するデバイスを目指して研究を進めています。
関連論文
- Tottori et al., RSC Adv. 7, 35516 (2017).
- Tottori et al., Biomicrofluidics 10, 014125 (2016).
マイクロレンズ成型
マイクロ流路による液滴生成法を応用し,固体型を用いない,微小レンズの製造法を研究しています。硬化性原料と非硬化性液体が相分離した状態の多相液滴をマイクロ流路を用いて生成し,硬化処理を介して,非硬化性液体によって型取りされた微小レンズ粒子を得ることができます。これまでに二相,三相液滴から各種計状(両凸,両凹,凹凸)の微小光学レンズが得られており,より広範な材料,サイズ,形状に適用できるよう研究を進めています。
関連論文
- Nisisako et al., Micromachines 6, 1435–1444 (2015).
- Nisisako et al., Small 10, 5116–5125 (2014).
- Nisisako et al., 精密工学会誌 79, 460–466 (2013)
人工脂質二分子膜
脂質二分子膜は細胞膜の基本構造としてよく知られており,それを人工的に作製した系は,各種電気生理学試験,バイオセンサ,人工細胞の研究等に近年広く用いられています。これまでに本研究グループでは,マイクロ流路中の液滴間やマイクロチャンバ内に脂質二分子平面膜を効率良く作製し,薬剤候補化合物の受動膜透過性をin-vitroで迅速に測定できる手法の研究等を行っています。
関連論文
- Nisisako et al., Analyst 138, 6793–6800 (2013).
マイクロ流路の並列化による生産スケールアップ
マイクロ流路を用いた液滴生産技術の幅広い実用化を目的とし,マイクロ流路を高密度に多数並列化(ナンバリングアップ)することによる,各種液滴・微粒子の生産量スケールアップ技術の研究を行っています。これまでに,数cm角のチップ上に数十~数百のマイクロ流路を並列化し,サイズの均一性に優れた単相エマルション滴,Janus液滴,複相エマルションおよび各種微粒子の生産速度を数十~数百倍に高めることに成功しており,さらなるスケールアップを目指した研究に取り組んでいます。
関連論文
- Nisisako et al., Lab Chip 12, 3426–3435 (2012).
- Nisisako et al., Lab Chip 8, 287–293 (2008).


















